伝えたいという気持ち
先月のことになりますが、のびのび職員の内部研修会として、ST(言語聴覚士)の方のお話を聞く機会がありました。
日頃、STの方々は、言語発達の遅れや、聴覚障害、吃音、病後の後遺症をかかえられた方々に向き合って仕事をしておられます。訓練回数や期間が限られた中、その人にとってのことばに関する問題(一番何に困っているのか)に対してどうアプローチされているのか、とても熱心に語っていただきました。
のびのびでは、小さい子のクラスに限らず、発声が少ない、意味のあることばがまだ出ていない、というこどもさんも多くおられます。私たちは、STの方たちのように「言語の問題」という取り組み方ではありませんが、その子の興味や関心、人との関係がいかに広がり、いっしょに生活するなかでお互いに気持ちの良いやりとりができるようになるのか、を考えながら保育しています
発語の少ないこどもさんとも、まずいっしょに遊んで、人とのかかわりを楽しめるようになってきて初めて「伝えたい」という気持ちが生まれるのだと思って保育してきました。それが、やはり確かなことなんだと思えた研修でした。
ことばに課題のあるこどもさんは、人とのコミュニケーションでの成功体験(伝わった、と思えること)を十分味わえるような支援が必要。 親御さんや、周りの大人が、こどもに反応的にかかわることが基本だとSTの方のお話がありました。
そして、こどもがより良く伝えられるように支援していくことが必要だと。
具体的なお話としては、
気持ちはあるがまだ伝える手段をもたない子に対して、触れあい遊びやまねっこ遊びなどかかわりの楽しさに気づいてもらい、楽しく声かけしながら繰り返し何度も遊ぶことを通して人の存在や自分が人を動かせる力をもっていることを気づいてもらう。
伝える手段をもたない時期を経て、人を見て、声をだす、行動するという手段で人に伝えられるようになるので、アッとかアーというような発信に対しても応えることで、伝わるんだ、もっと伝えたいという気持ちを育てる。
もし、その子の気持ちに漫画の吹き出しのようにせりふをつけるなら?と、考えてみる。
「ワンワン、いっちゃったね」「ボール、ほしいね」「あ~あ、ざんねん」など、こども本人やおとなの気持ちをことば化する。
そして、例えば「りんご」ということばがでるようになったら、「りんご、やね~」とこどものことばを真似て、共感を伝える。また、「りんご」というこどもの1語文に対して、本人の気持ちを考えながら「りんご、おいしいね」などと2語文にして返す。また、「りんご、ちょうだい」などの、モデルを示してみる。
などなど。
保育の中で自然に実践していることもあれば、もう少し発信を待つよう意識していった方がいいな、という反省もありました。
その一方、保育では、時には、大人が積極的にかかわり促すことによってこどもの気持ちや動きを引き出すことが必要になってきます。また、小学生になると言語に関する課題も変わってくるので、ST訓練においても、伝える手段は発語に限らず考えていくことになるようです。(このことは、また別の機会に書けたらと思います)
ことばが出てほしい、こんなふうになってほしいという切なる願い、焦ってしまう親御さんのお気持ち、良くわかるだけに、ついついいっしょに遊んだり、かかわったりしているうちに親御さん主導になり、ああ言うてみ、こうしてみ、と促しがちになる場面や次々大人が先回りしてしまうこともあることは、無理からぬこと。
でも、その子を思い、笑顔をうれしく思うことそのものが、こどもが人とのかかわりを楽しみ、気持ちを伝えたいと思い、またこども自身も他の人のことを受け入れられる、お互いに気持ちの良い関係につながるのだと思います。私たちももっとこどもたちに信頼してもらえるように、心がけて保育をしていきたいと改めて思ったのでした。
(すぎもと)
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